AI導入の費用対効果の話(製造業版)

製造業(工場)におけるAIの導入でよく挙げられるのが「外観検査工程の自動化」です。つまりは最後に製品が良品か不良品か判断する工程です。

工場は自動化が進み、製造ラインにロボットなどが導入されています。

しかしながら製造における最後の工程部分である出荷前の検品作業は自動化することが難しいと言われ続け、人がやっているということがまだまだ多いのも現実です。

この業務は工場の工程における最後の砦になるわけなので、重要かつ機械などによる自動化は難しく、精度が非常に重要なので、人間同等もしくはそれ以上を求められるわけです。

 

まず、費用対効果の話をする前に、そもそも「精度」について少し触れておきます。

機械学習のエンジニアの皆さんからはそんな簡単なこと分かるよと言われてしまうかもしれませんが。。。)

 

そもそも精度とはrecallとprecisionという2つの考えがあります。

recallは再現率、precisionは適合率とも呼ばれ、私もたまにごっちゃ混ぜになってしまうくらい少しややこしい話です。

 

例えば外観検査の精度を評価する場合、1000の評価用のデータ(画像)を出来上がった学習済のモデルに通してみて、事前に画像に付いている正解(良品 or 不良品)とモデル(AI)が出した答えの正答率をみるわけ、下記のような結果が出たりします。

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1000の評価用データでの精度評価(990が良品で10だけ不良品がある場合)

これどういうことかというと、不良品10個をAIがちゃんと当てられているということ、そして本当は不良品なのに良品で判断してしまうミスがゼロということ。これは素晴らしい!

ただし本当は良品なものを不良品と判断してしまうものが200もあるわけです。

ではこの結果をrecallとprecisionで表現してみます。

すると、下記にようになります。

recall(再現率)=10 ÷ (10+0) =1 (100%) 不良品を不良品と判断できた精度

precision(適合率)=10 ÷ (10+200) = 0.047 (5%) AIの判断した不良品が本当に不良品だった精度

 

ここで、問題になってくることがあります。

上記の考え方などがあまり分からないままで、「今回のAIは精度が100%です」と言われたら凄い!となるわけです。

ですが裏にはprecisionの精度5%というのはあり、逆にこちらをメインで聞いてしまった人がいたら、「5%も間違えるの?そんなの現場に導入できない!(怒)」みたいになってしまうわけです。

 

でもこの精度の考え方をちゃんと持っていれば、悲観的なものではないのです。

ちゃんと不良品を100%で判断している(不良品を良品と誤判定して出荷することはない)中で、たまに良品を不良品を言ってしまうだけなのです!

 

さて、ここでやっと費用対効果の話に入ります。

上で使った例をそのまま活用し、こんな現状だったとします。

 

  • 現状の作業:5人の作業員で外観検査を人手で行なっている
  • 作ったモデルの精度:上で記載したもの(不良品判定のrecall 100%、precision5%)
  • 作業員一人当たりのコスト:50万円/月

 

さて、まずこれでどれほど自動化できるか。

先ほどの精度から考えると全体の検品の中で21%(210 ÷ 1000)は人手でみる必要があることになります。(AIが不良と判断したものを人が本当に不良が確認するため)

そうすると約80%の業務改善が進むことになり、作業員は5人→1人になります。

正直、不良品判定のような不良品が滅多に出ない場合には、precisionはあまり意味を持たないことが分かります。

つまり上記のように業務がどれほど改善したかという数値で評価すべきです。(もちろんrecallを100%でキープしつつ)

この業務のみについてのコスト削減効果としては50万円×4人=200万円/月となります。

 

一方で導入にはコストもかかるのです。なんとなくの見積もり(高めに設定)です。

AIのモデル構築:1000万円

ハードウェア導入:7000万円

運用費は無しとしておく(シンプルにする為かつ抑えられる為)

つまり合計8000万円の投資となります。

これを例えば5年償却で考えると8000万円 ÷ 5年 ÷ 12ヶ月 = 約130万円/月

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ということで200万円/月の削減効果に対して投資130万円/月となり、毎月70万円の利益が生まれることになるわけです。

 

そして、上記は最低限(一部)であって、もっと費用対効果が上がり、新しい価値を生む場合もあります。

それは下記です。

  • 今までの話は工場1ラインの話で、1製品で複数ラインの場合にはモデルの横展開ができるので、より費用対効果は高くなる
  • 実際にはハードウェアの導入が2000万円以内で済む場合も多い(その場合には30万円程度/月の投資だけ)
  • 単純な作業員の削減ではなく、そうした作業員の方が他の業務で価値を創出した場合の利益増加は考えていない
  • 実際に製造業の現場では人手不足でそもそも採用が出来ないので、その見えにくいリスクが無くなる
  • 実際には人的ミスもあったり、人によって質にバラつきがあったりすることもあり、そのバラつきがなくなり質が均一化される

AIによる外観検査の自動化は難しいものの、効果はありそうですね!

 

以前、ある製造業の担当者さんからこんなことも言われたことがあります。

「そもそも人が採用出来ないし、しても単純作業だと退職リスクが高い。費用対効果云々というより存続するために、自動化が必要!」

「人を1人採用したら、採用するのにも諸々数十万円かかり、採用したら定年までの生涯賃金の何億円という投資が発生する。そう考えればAIの導入への数千万円は安く考えられる」

確かにそうだなと非常に共感したのを覚えています。

また、ざっくりですが、仮に営業利益率5%の会社だったとしたら、この利益70万円というのは売上に換算すると1400万円になり、月1400万円の売上増加って大きいですよね。

 

今回は製造業における費用対効果の話をしましたが、次は小売流通あたりで書こうかなと思います。

 

ちなみに今回の話はある1事例に過ぎず、状況は各社によって違うと思いますので、

製造業関連の方々はここに記載のことを参考に自社に当てはめて考えてみて欲しいです。