AI導入の費用対効果の話(小売業版)

前回製造業におけるAI導入の費用対効果について、例としてAIに夜外観検査の自動化における費用対効果の考え方を書きましたが、ケースバイケースにはなるものの効果が十分にあると考えています。

takuro-s.hatenablog.com

 今回は小売業、いわゆるスーパーやドラッグストア、アパレルや雑貨店などにおけるAI導入の費用対効果の話です。

 

小売業における主なAI導入事例は、こんなもんかと思います。(勿論他にもあるでしょうけどよくある事例として)

  • 在庫最適化(在庫管理の自動化)
  • マーケティングの最適化(自動化)
  • AIカメラ等のソリューションによる可視化

まず在庫最適化についてですが、どんなものに効果があるかというと賞味期限が短いものを多く取り扱ってる店舗や、在庫を多く持つことが出来ない店舗に対しては効果が高いと言えます。

上記のような場合、下記のどちらかが発生します。

  1. 売上機会損失(在庫がなかった為に本来の売上が発生しなかった)
  2. 廃棄ロスや過剰な割引(在庫が余ってしまい、廃棄したり無駄に割引してしまう)

AI導入前の状況次第になりますが、1、2どちらも多くの店舗が課題を抱えており、ここを経験とカン、もしくは多忙な日々のオペレーションの中で何とかやっている、何となくやっている店舗にとっては効果はあると思います。

また、在庫最適化に関しては過去の売上/仕入(在庫)データがあれば、データから導き出せることが多く、ハードウェアなど新たな投資は限られる為、そういった意味でも費用対効果は高くなる可能性はあります。

しかしながら、最も気をつけなければならないのは、小売業界も人材不足なのです!もっと製造すれば良いことが分かったところで製造する人材がいないということもあります。なのでそうした現実問題の中で最高の結果を出すようなアルゴリズムの構築が求められるのです。

 

次にマーケティングへのAI活用。これも今まで何となくやっていたということであれば、そこにビッグデータ解析、AIの導入により効果を得ることができるかもしれません。

ただし、問題としては、仮にデータからどの人に何をマーケティング(お勧め)すれば良いかが分かったところで、それを伝える手段(LINEやメルマガなど)を考える必要もあり、それをユーザーに見てもらえるかはコンテンツ勝負になってしまうところもあり、クリエイティブ等の重要性が増してきます。

つまりAI云々だけではなく、コンテンツやクリエイティブ、そしてユーザーの状況なども考慮する必要があり、意外に運用が難しいというのが経験上思うことです。

 

最後にAIカメラによる可視化の話。今回はここをメインに語りましょう。

売店舗に新たにつけたカメラで、店前通行人数、来店人数、属性、リピーターかどうか、どの棚に顧客が興味を持っているか、どういった導線を通っているか、様々なことが画像から判断することができるようになってきました。

ちなみに上記に書いたこと、半分くらいがAIですが、半分くらいがAIなんて使われていません。どれが使われていて使われてないかには言及しませんが、AIなんて使わなくてもやれることは多いってことです。(AIカメラというマーケティングのみで使われている用語なんでしょう)

 

さて、こうしたAIカメラによって、色んな情報が取得できるので、店舗としては新たな発見が得られたりして店舗改善に繋がり、結果利益が向上すると言えます

ただし、ちゃんと費用対効果を考えると非常に厳しい結果になってしまうこともあります。

 

例をあげて説明します。

 

あるアパレル店舗がAIカメラに対して月5万円かけて、店舗の来店者数や来店者の属性データを取得したとします。

どの会社のものも精度は高くて80%〜90%くらいでしょうけど、今まで取れていなかったデータなのだから、この精度は目をつぶるべきでしょう。。。

 

こうしたデータが取得できると、時間帯ごとの来店者数とその属性(男女や年代、リピーターかどうか)が取れ、POSレジデータと連携し、レジ通過人数と計算することで、時間帯ごとの買い上げ率(いわゆるECサイトで気にされるCVR)が可視化されます。

 

さて、ここから問題です。上記のデータが可視化されて、どうするの?

だいたいこうしたデータを取得して分かることとそのアクションは、こんなことでしょう。

  • 来店者数が多い時間があり、その時間の買い上げ率が低いので、シフトを厚めにしよう(接客率の増加等による売上UP)
  • 時間帯ごとに来る顧客の属性が分かったので、それに合わせて店内のレイアウトを変更しよう
  • 新規顧客が少なくなってきたので、新規顧客獲得のマーケティング施策をしよう

一見理にかなっています。

(何となく現場では気づいていたものの)新たな発見もあり、施策が明確になり、データ・ドリブンの店舗経営が可能になるのです。

 

ただ今回のテーマである費用対効果でちゃんと考えてみましょう。

 

まず前提として、データ取得に5万円/月の投資をしているのです。そこで例えば買い上げ率が課題と分かり、接客率を高める為にスタッフを増員します。(あり得ないことですができる限りコストを抑えて考える為に)週3で4時間時給1500円のスタッフが増えたことにしましょう。

するとAIカメラの投資に加えて、約7万円(1500円×3日/週×4週×4時間)が更に投資が増え、合計12万円の投資になります。

費用対効果を考える場合、この12万円の投資に対して、いくら売上を増加すれば良いか。。。

ちなみにアパレル業界の営業利益率は3%程度です。(ファーストリテイリングは異常で10%くらいだったりしますが、一般的には2〜4%、もしくは赤字)

ということで12万円投資したら、400万円(12万円÷3%)の売上増加がないと元が取れないわけです!

 

この400万円の売上UPはどれだけ凄い事か。。。だいたい1日平均売上は40万円程度です。400万円って10日分の売上増加ということでとんでもないことなのです!!

それを接客率増加で達成できますか。。。

 

他のことも同じです。レイアウト変えるのもマーケティング施策やるにも人の時間が使われるし、マーケティングのお金がかかるし、費用対効果はあまり見込めない。。。

仮にAIカメラのみの5万円の投資で済んだとしても約160万円(5万円÷3%)の売上増加がなければ費用対効果としては、マイナスとなるのです

この160万円の売上増加・・・つまり5万円/日の売上増加。1日30〜40万円の売上店舗が多い中そんなことができるのでしょうか。。。疑問です。

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あくまでこれは理論的に考えた場合で、実際にはスーパースタッフがいて、5万の投資で何百万円、何千万円という売上増加を達成することもあるのかもしれませんし、奇策によって効果は出るかもしれません。

ただ小売業も人材不足は明らかでその中で果たしてそんなことができるのか。。。

 

結論、小売業におけるAI活用は今人がやっている業務の自動化(もしくは全くやっていない業務)で、更に精度が上がるようなものであれば費用対効果が高いと言えます。

ただし、そもそもAI活用自体に高額な投資が発生する場合には要注意となるわけです。

AIではないですが、ハードウェア系の導入ならばRFID導入によるバックヤード業務の効率化などの方が良い効果を得られることは多いかもしれません。

 

東大の松尾先生もおっしゃっていますが、ディープラーニング(AI)で稼がないといけないと思っています。効果を考えるべきで、可視化が目的ではないのです。手段(AI導入や可視化)が目的(本来は稼ぐこと)化してないか要注意です。

そして小売業の場合は費用対効果を「利益」で考えるべきだと思います。

 更にいうと、確かにAIの導入で費用対効果を良くすることは難しいことかもしれません。ただ、その他で費用対効果の悪い投資があるかもしれず、そういったところのコスト削減とともに導入を進めていけば、現在的なデータ・ドリブンな経営や最先端技術の導入も十分可能だということも併せて伝えたいです!